小島動物病院AWC院長の小嶋です。PCAPとはPathology Centered Animal Practiceの略語で、‘病理学を中心にした動物の診療’です。ここでは動物の病理学に関わることを記載しています。

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

今回のテーマは最も語るのにハードルの高い病理解剖についてお話ししたいと思います。このテーマにつきましては誰もが耳にしたことがあるし、大事なことであることは誰もがなんとなく理解できるわけですが、感覚的に話題にすることが難しく、医学的に正しいと思われる理由だけでなく命、家族あるいは社会の在り方も含め総合的に考える必要があります。
今回だけでなく少しずつ整理していければと思います。ただ新年を迎えたことから少し難しいテーマについてもお話ししてみたいと思います。

病理解剖とは

病理検査の方法には治療のための診断として細胞診と組織診断があります。
特にガンが疑われる場合に、手術をするかしないかの目安として細胞診は有用であり、組織診断の場合は確定診断として、その後の治療方針を決定づける役割を担っています。
そして、病理検査は、命が終わった後、すなわち死後の病理検査を行い、病理診断を決定することがあります。そのことを一般に病理解剖といいます。
病理診断は病気を確定するための検査になります。死後の病理検査とは生前に分からなかった、不明な点が残るあるいは発生が稀な病気の場合に行われます。今時、これだけ科学が進歩していてまだ分からないことがあるのかと思われるかもしれませんが、病気の理解について病理学という確定診断が常に下支えとなり、ある病気について知ること、治療を振り返ること、それを積み上げてより良い治療を見出す必要があります。まだまだ分かっていない病気は山ほどあるはずですし、分かっている病気でも病気の発生から収束までのストーリーを理解できなければ、治療することやそもそも病気を予防することに発展させることはできないと思います。

 

獣医師の病理解剖とは

動物病院で行われる病理解剖は、診療対象動物である伴侶動物の病理解剖ですので、上記のように診療に対して、その振り返りや、未来への貢献のために実施されます。
獣医師は動物病院の診療を行う者だけでなく、産業動物といわれる牛、豚、鶏などを扱う獣医師や実験動物というマウス、ラットなどを扱う獣医師もおり、病理解剖を行う意味も変わってきます。
産業動物の場合の病理解剖ですと、主に食肉のために行うので、皆さんの安全な食生活を守っています。病気の食肉を皆さんに食べさせない、そしてもし病気が発生したら、そこで育つ動物に病気をまん延させないことはとても大事ですよね。
実験動物の場合ですと、お薬の効果を検証したりする場合に必要です。私たちが日々お世話になるお薬が安全に世の中に出るためにはこのような実験動物達の病理診断が役に立っています。
皆さんの食生活や健康を支えるために確実で正確な診断法である病理診断はとても重要です。そうなりますと動物の病理診断が私たちの営む社会生活に広く貢献していることが理解されます。

 

当院の病理解剖

様々な立場での動物の病理解剖について記載させて頂きました。
当院の病理解剖でも、意義は基本と何ら変わりなく、何の病気だったのか、病気に対する治療効果はどうだったのかということになります。ただ当院の特徴としては、病理解剖実施者は動物の病理専門家協会であるJCVPの認定資格を取得している獣医師が担当していることから、その医学的な質を担保しております。
いっぽうで大切な家族である動物の命を捧げて頂く飼い主様のお心を大切に考える当院の理念からカウンセラーを配し、生前から常に飼い主様に対してきめ細かい配慮を怠ることのないように努めております。またアキハフェスタなどでは老若男女問わず命と向き合う時間を設け、地域社会を含め、広く理解を求めようと努力しております。
基本的な事になりますが、何でも病理解剖をすればいいというのではなく、獣医師と動物看護師が常に協調し、教育しあいながら、常に分からないことが極力ないように適切な検査治療を行い、動物とそのご家族の絆を大事に日々の診療や看護を行っております。

 

病理解剖に対するお声

当院の姿勢や考えにご理解を頂けましたか?
実際に病理解剖を行っていますが、不思議とネガティブなお声を頂くことがほとんどありません。皆さん、ご家族で一生懸命議論されております。”もっとよく病気のことを理解したい””どこかの誰かのためになってほしい””次に迎える動物のためになるかもしれない”こんなお話をされているのではないかと思います。そして、「幸せだった?」「ずっと苦しかった?」「これでよかったの?」といった心に残るしこりを私が動物たちの代わりとなって、最後の声をお伝えしています。

もちろん相談の末、実施されないケースもあります。ただそのような場合でも、命について向き合う大事な機会、時間にして頂いていると感じています。病理解剖を通じ、動物の病気だけを見るのではなく、引き続き動物の病気を通じて、飼い主様やそのご家庭の平和や発展のお役に立てるような仕事をさせて頂けるよう真摯に誠実に取り組んでいきたいと思います。