小島動物病院AWC院長の小嶋です。PCAPとはPathology Centered Animal Practiceの略語で、‘病理学を中心にした動物の診療’です。ここでは動物の病理学に関わることを記載しています。
2020年のテーマはWith With Withで動物の一つの疾患に関して様々な側面から分かりやすく見てみることにしています。初回は犬の甲状腺機能低下症を取り扱いと思います。
寒くて、眠くなっちゃう。
甲状腺機能低下症とは甲状腺ホルモンの産生あるいは分泌の障害に起因し、循環中の甲状腺ホルモンが低下する病気です。
甲状腺とそのホルモンについて
甲状腺は首にある豆粒ほどの小さな臓器です。その甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、小さな臓器から出る割にはものすごく大きな役割を担い、体の様々な代謝を活発にするために働くホルモンです。よってこのホルモンが欠乏すると、甲状腺機能低下症になり、体の様々な臓器の代謝が落ちるので、体の至るところで不協和音が生じます。
甲状腺機能低下症の臨床症状と基本的な検査
分かりやすい症状では肥満、無気力、倦怠感、運動を嫌がる、脱毛などがあります。全身の臓器の代謝が下がるというイメージで考えてみると理解しやすい症状だと思います。この病気の診断は、甲状腺ホルモン検査(総血清サイロキシン(T4)、遊離サイロキシン(fT4)、甲状腺刺激ホルモン(cTSH))の測定をすることで診断されます。甲状腺機能低下症の治療は、合成甲状腺ホルモンを投与すると、症状の改善が期待されます。
PCAP的甲状腺機能低下症の犬の1例
今回は内分泌科with 皮膚科 with 病理診断科with感染症科ということで書いていますので、①甲状腺機能低下症をホルモン(内分泌)検査で証明していること、②皮膚病に関連して発症していること、③病理診断で甲状腺機能低下症に矛盾していないことを明らかにしていること、④感染症も関与していることを条件に症例の紹介をしたいと思います。
症状
すごい脱毛・すごいフケ・すごい痒みでした。飼い主様は脱毛により全く見た目が変わってしまったことを嘆き、また一日中、体を掻き壊す時の姿とその音で眠ることもできなくなっていました。
血液検査:
貧血が認められました。
皮膚科一般検査:
フケの中に多数のダニが見られました。
甲状腺機能検査:
T4とfT4が低値、cTSHが高値を示しました。
皮膚病理検査:
休止期毛包が多数見られ、軽度に脂腺が過形成を示し、角化亢進も生じていました。
診断と治療:
甲状腺機能低下症による萎縮性皮膚病とダニの感染が認められました。脱毛、貧血、ホルモン検査はイントロでご紹介した甲状腺機能低下症の基本情報に合致しており、その結果を病理検査が支持してくれましたので、自信を持って甲状腺ホルモン剤の処方に至れます。いっぽうで、ひどい痒みは甲状腺機能低下症によるフケのところに続発的に感染してしまったダニが引き起こしていると思われ、駆除剤を使用しました。
予後:
治療経過は大変順調で、主訴の脱毛や痒みは改善し、飼い主様も安眠が出来るようです。
2020年のPCAPテーマはWith With Withですので、甲状腺機能低下症が基礎にある複雑な皮膚病の症例の記載をしましたが、昨年、肥満のみがお悩みのワンちゃんの原因が甲状腺機能低下症であることを経験しました。私は最初、食べ過ぎなだけじゃないかと思っていましたので、飼い主様に本当にたくさんご飯をあげていないかしつこく聞いてしまいました。ホルモンってすごいなぁとつくづく思います。