小島動物病院AWC院長の小嶋です。PCAPとはPathology Centered Animal Practiceの略語で、‘病理学を中心にした動物の診療’です。ここでは動物の病理学に関わることを記載しています。2020年のテーマはWith With Withで動物の一つの疾患に関して様々な側面から分かりやすく見みることにしています。今回は炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease、IBD)を紹介します。IBD(アイビーディー)って英語で言えるだけで、少し獣医師として立派になったような気になりますが、正確な診断と治療を行うこと、その背景をいろいろ想像しているとまだまだ改善の余地のある病気で、お悩みの飼い主様も多いです。

IBDって
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease, IBD)は腸の粘膜に起こった炎症によって特徴づけられる原因不明の慢性の腸障害を特徴とする病気です。IBDは犬や猫の慢性の嘔吐や下痢の最も一般的な原因であると考えられていますが、未だ十分に確立されていない疾患です。診断には病理組織検査が重要でリンパ球と形質細胞の浸潤が見られます。原因はよく分かっていませんが、腸粘膜の免疫応答の変化、バリア機能の変化、腸内細菌叢の変化、食餌抗原の影響など複数の因子が関わっていると考えられています。私見になりますが、本病を日々の診療現場で単純にお腹が弱いと見るか、内視鏡検査や病理検査を重要と見るか、アレルギーが関与してと見るか、あるいはそれらをあえて重視しないかなどでIBD、食物反応性腸症、抗菌薬反応性腸症、腸リンパ管拡張症などの病名が混在しながら診療が行われていることが多いと思います。

当院で出会うIBD(Animal wellnessとPCAP)
症状:慢性的な嘔吐、下痢および体重減少が見られます。重症化すると胸やお腹に水が溜まります。こうなると大変です。
診断:原因が不明なので他の嘔吐や下痢が見られる寄生虫などの病気を丁寧に除外することが必要です。手前味噌ですが、当院では動物にもご家族にも負担のかかるIBDの診断と治療を行う前に、まずは当院の診療理念であるAnimal wellnessにより、動物と暮らす上で基礎的な予防や食餌などをおすすめし、混乱の無い中でIBDの診療に入ることが重要と考えています。よって PCAP的にIBDを見るには内視鏡検査と病理検査を組み合わせて腸へのリンパ球と形質細胞の浸潤所見を取ることが重要であり、引き続いてその所見を引き起こす背景にアレルギー関与する食物反応性腸症ないかなどを確認したり、あるいはIBDとの区別が難しい消化器型リンパ腫との鑑別にリンパ球のクローナリティーについてPCR検査を併用して診断を行っております。
治療と予後(Bond based management):腸炎を抑えるために主体となるのはステロイドや免疫抑制剤であり、それに加え補助治療が行われるのが一般的ですが、原因によっては食餌療法や、上述したようにリンパ腫だった場合には抗癌剤治療などが行われます。治療は継続的で、予後も様々でありますので、動物だけでなく、どのようにしたら飼い主様が幸せになれるかを確定診断を元に、病院スタッフ全体で支えるのが当院のBond based managementと考えています。

第8回日本獣医病理学専門家協会(JCVP)学術集会を応援しています。
2020年4月現在、すっかり世の中は新型コロナウイルス感染症に振り回されてしまっております。収束が見えず、動物医療の世界も日々の感染への不安を抱えながら、診療を行っています。この問題は私個人ではどうにもならないことですが、不安な中でも日々動物とご家族の皆さまのために一緒に働いてくれているスタッフや当院を支えて下さっている全ての人に感謝をし、努めて明るく笑顔で、希望を持って診療に望みたいと思い、日々を過ごしています。このような事態になるとは思っていませんでしたが、当院では毎年1月に今年の目標を立て、スタッフの皆さんと診療の方向性を合わせる上で、病院の理念を理解してもらうように努めています。以下に、今年のPCAPについて病院で掲示しているものをお示しいたします。

PCAP(病気になった時にどうするか)
何の病気であろうと病気は不安を煽ります。どうしたらいいのかと途方にくれます。治せるかどうかは別にして、何の病気であるか分からなければ、どうしていいのか、どうしてあげればいいのか分からないのです。そこを科学的な根拠に基づいて病気のストーリーを捉えるのが病理発生です。いっぽう病理発生を理解することは治療方針を示してくれますが、それがご家族の不安を和らげることにはなりません。科学的な根拠に基づいたことをベースに各ご家庭の事情を考慮しながら診療を行うことがPCAPです。

先日、新型コロナウイルス感染症の米国の症例報告を読みました。今はまず感染拡大を防ぐことや社会生活を成り立たせることが重要と思いますが、やはり新型コロナウイルス感染症を理解することが極めて重要と思います。この病気の病理発生を解明した上で、治療薬や予防方法が確立されることを期待したいと思います。その症例報告には詳細な病理所見が記載されており、病気の本質を理解するには病理検査は、今後も重要であると思います。動物の世界にもコロナウイルスはあり、病理検査は引き続き重要です。来春には獣医師の病理専門家の集会が予定されています。不透明な時期が続きますが、皆さん元気にお会いできるのを楽しみに、しっかり力を溜めて日々努力したいと思います。早く世界が晴れますように!!

第8回日本獣医病理学専門家協会(JCVP)学術集会について

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https://researchmap.jp/read0004131/research_blogs

大会HP  https://jsvp.jp/jcvp/8th/index.html

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