小島動物病院AWC院長の小嶋です。PCAPとはPathology Centered Animal Practiceの略語で、‘病理学を中心にした動物の診療’です。ここでは動物の病理学に関わることを記載しています。2021年のテーマは‘超三流になる’です。もう一度、足元を見つめて、身近な病気を再度確認すること、所見をしっかり取ることをして、病理と臨床の事やそれに近しいことをまとめています。プラスαでは病理と日々の生活を結び付けて、少しだけアートなことをしたいです。その3は形質細胞腫です。Pathoアートはトマトの切り出しです。
形質細胞腫(皮膚、消化器、腫瘍、病理の視点から)
概要: 形質細胞腫瘍はBリンパ球・形質細胞系統の細胞が増殖して発生します。大まかな分類としては体の様々なところにできる孤立性形質細胞腫と骨髄で発生する多発性骨髄腫があります。
孤立性、髄外性の形質細胞腫は比較的よく遭遇する病気です。高齢犬に多く、発生部位は皮膚(86%)が圧倒的で、口周りが9%、稀に大腸での発生があります(4%)。特に皮膚の場合はテリア種、コッカ―スパニエル、スタンダードプードルに好発性があり耳を含む頭部や四肢に多いとされています。肉眼的には腫瘤状になっているものや少し盛り上がったような盤状の結節になっているパターンがあります。皮膚や口のものは良性的な挙動を取るため外科的切除で治ることが期待されます。
気付きにくいという理由もあるかもしれませんが、消化管のものはやや悪性挙動を取ることが多いとされています。
猫では形質細胞腫の発生は多くないと思いますが、猫の形質細胞性肢端性皮膚炎はよく知られた疾患で、足先がパンパンになってしまい、痛みが強いです。
以上が簡単な孤立性形質細胞腫の概要ですが、当院のデータからもぴったり当てはまります。
いっぽうで、形質細胞腫瘍の別のパターンである多発性骨髄腫についてですが、私は経験がありませんのでお示しできません。学生の頃はテストで必ず出るので、高カルシウム血症、骨融解像(パンチアウト像)、過粘稠度症候群、ベンスジョーンズ尿蛋白の用語を覚えていました。実際の臨床で、もし遭遇すれば、高カルシウム血症や骨融解像に起因する整形・神経症状、過粘稠度症候群による眼科、神経症状などでの来院が想定され、腫瘍性疾患ですが、私の場合はまずは五感と神経学的検査をフルに使って勝負することを想定し、日々、診察に磨きをかけておこうと思います。
所見(皮膚の孤立性形質細胞腫、11歳齢、不妊済みのシーズーの前肢の指先):
真皮において有茎状の充実性腫瘍が形成されている。腫瘍では濃染性円形核とやや広い円形好酸性細胞質を有する形質細胞様腫瘍細胞がシート状に増殖している。腫瘍細胞の核は大小不同を示し、所々で車軸状核を有するものや2核のものを認める。核分裂像は最大3個/HPFである。また腫瘍内には好酸性基質が豊富に見られ、これらはコンゴ-レッドに陽性を示した。また所々に好塩基性粘液とその軟骨基質への分化が見られ、アルシアンブルー染色(Ph2.5)に陽性を示した。免疫染色では腫瘍細胞は抗CD79aに陽性を示した(免疫染色ではその他に抗lambda やkappa light-chain抗体を用いた免疫染色で証明する方法があります。)
どうぶつPathoアート:今月のどうぶつ Pathoアートは動物ではなくて、トマトを題材にしてみました。病理では切り出しという作業があるのですが、優秀な病理医の先生の写真を見ると大変に美しく、臓器を切り出されており、センスを感じます。私の歴代の指導者は皆さん素晴らしい技術をお持ちでした。ちなみに私は三流ですので、何年やっても足元にも及びません。上手になりたくて豆腐で練習したりしていましたが、あまり意味がありませんでした。いっぽうで、いろいろ調べていると植物病理という世界があることに気付いたり、料理人の世界では大変に厳しい修業をされたりしているのを目にする機会があり、ちょっと拝借してみたい気持ちになり、そこで今回の作品を作ってみました。ちなみにトマトを切り出したのは妻です。超3流も第3回になりましたが、何一つ自分でやらず、超3流街道を走り切っております。
告知2件(採用、学会)になります。どうぞよろしくお願いします。
その① 獣医師募集のお知らせ
② 第8回日本獣医病理学専門家協会(JCVP)学術集会の応援
********************************************************
https://researchmap.jp/read0004131/research_blogs
大会HP https://jsvp.jp/jcvp/8th/index.html
********************************************************