小島動物病院AWC院長の小嶋です。PCAPとはPathology Centered Animal Practiceの略語で、‘病理学を中心にした動物の診療’です。ここでは動物の病理学に関わることを記載しています。PCAPが哲学じみてよく伝わらないというご指摘を頂くことがあります。本人としては病理学がご家族の皆様にとってより身近な物になるとよいと思っていますのでご不明な点はいつでもご相談ください。たまに自身の整理も含めまして解説を記載してみようと思います。
病理学とは、どうして病理学が大事なのか?
病理学は何の病気なのか、その病気になるとどうなるのか、なぜその病気になったのかを理解することです。
どうして大事かというと何かの病気になった時に、その病気の何故、すなわち上記した病理学のことが分からないと何をしていいか、すなわち何の治療をしていいか分からないからです。
ですから病気の名前はそのほとんどが病理診断に基づいた名前になっています。
何をするのが病理診断で、何故、病理診断が身近ではないのか?
病理診断はHPでもご紹介しているように細胞あるいは組織を体から採取して、それを基に診断を行います。細胞や組織を取るって、少し気が引けてしまいますよね。私は自分が注射をされるのを見るだけでもドキドキしてしまいます。細胞を取る時には注射針など使ったり、組織を取る時は手術をしたりします。当然、そのような方法で検査を行うわけですので、一瞬息と動きを止めるだけのレントゲン検査やゼリーがヒヤッとお腹につくぐらいの超音波検査などに比べれば、検査を受ける側にとってハードルが高くなるのは当然なことと思います。
それでも病理診断を行う意味がある?
私見ですが日進月歩で進歩する検査技術、広い意味で医療はいかに病理診断をしなくても病気の正確な診断にたどり着けるようになるかの歴史だと思います。よって病理診断はどの検査よりも病気の名前を決めるのに優れた切り札ですので絶対に意味があります。
病理診断だけでいいのか?
そんなに病理診断が絶対的なら病理診断だけでいいのではないか、あるいは獣医学の中心とは病理学ではないのかということになります。
実は私はそう信じていました。
初めて病理学に出会ってからその魅力に取りつかれ、朝から晩まで生活の中心は病理でした。大学時代では満足できず、大学院でも病理を専攻、それでも足りず、アメリカまで病理を学びに行き、専門資格も取得しました。自分なりに出来るようになりたくて本気だったと思います。病気の本質をみることが最も大事であると信じていました。いっぽうで日々の診療、つまり臨床を始めてみると、困っているご家族の皆さまが最も望んでいることは、今、目の前にいる自分の小さな家族の苦しみや辛さを治して欲しい、あるいはそれが出来ないなら少しでも楽にして欲しい一点に尽きます。病気を見ることは当たり前ですが、動物やそのご家族を見ることが要諦であると気づきました。第一に求められていることに応えずして、正しさや正確さのために病理診断を使うことは、最も崇高な医療分野の一つである病理学に対する背信であると考えるようになりました。病理学を深く学んだ獣医師は動物あるいはそのご家族に信頼されるスペシャリストと必ずしも一致するわけではないと思います。
固執から信念にするためPCAP始めました
臨床を日々のルーチンワークとしつつ、さらに病理学を多角的な視野で探求するため、自分の病理を作りあげるためには、病理学的な検査手技を極めることから、病理学的な思考を使うことでPathology centered animal practice (PCAP、病理学を中心においた動物の診療)を始めました。日々の一般診療、診断、研究、高度な技術を磨くことはもちろんですが、より情報発信を通じて、多くの方にPCAPを知ってもらい、そして経験して頂き、そこで結果を出すことで信頼を集め、PCAPを一つの概念に育てていきたいと思っています。